A01 君を見ている

「環くん、野菜食べるまで、遊んじゃだめだからね」  小学校の教室。クラスメイトはとっくに給食を食べ終わり、短い昼休みのチャイムが鳴る頃だった。 「おにごしよーぜ!」「いやドッジだろ」「いこいこ!」  ガタガタと椅子を引く...

A02 鏡越しの、あなたと私

「失礼します。……」  レッスンルームのドアを開け、いつものように声を掛けたが中には誰もいない。時計を見てみたが、伝えられていた集合時間よりも十分程度早いくらいで早すぎるというわけではなかった。時間前行動が身についている...

A03 からいはかてい

 寝起きは、あまり良くない方だ。十分な睡眠を取れている日であっても、頭が働くようになるまでは、多少人より時間を要する。幼いときからどうにもずっと直らない、ボクの欠点の一つだ。  そんな自分の性質もあってか、折に触れて思い...

A04 夜更かし

 ミュージカル・ゼロが千穐楽を迎えた。  生配信には間に合わなかったけれど、「キミと愛なNight!」の収録だったお陰でオレたちは全員そろってアイナナ寮のリビングに集まることが出来た。みんなそれぞれ飲み物を持って、液晶テ...

A05 鏡よ鏡!今日一番の幸せ者は!?

「ヤマさん鏡ある!?」 「うお!? なに!?」 「ごめん! 鏡! 鏡ある!?」  ノックもなしに開け放たれた扉の前で迷子の子供みたいな顔のタマが立っていた。迷子の子供っちゃ迷子の子供なんだけど、態度の太々しさは自ら迷子セ...

B01 鏡の扉

 小鳥遊事務所の稽古場に、夕陽がさし、壁の鏡に映り込んでまぶしく光っていた。  ふと、鏡に手をつく。長く射す陽は、鏡のこちらとそちらを繋ぐ、ひとすじの道のようだった。 「夕方ですね。そろそろ上がりましょうか。――兄さん?...

B02 鏡合わせ。あるいはその反対

陸が入退院を繰り返していた頃だ。少しだけ体調がいい日、家族四人で近くの公園に遊びに行った。お弁当と水筒を持ってレジャーシートまで用意した。 すぐ近くに行くだけなのに大仕事だ。それでも、陸にとっては久しぶりのお出かけ。家族...

B03 Good morning TRIGGER!

朝の洗面所は戦場である。 …なんて言葉もあるが、それは時間に追われる人間が多いからだ、なんて九条天は思う。 「おはよう、天。」 扉を開けると、先客は朝にふさわしい笑顔でそう言ってくれた。 「おはよう…りゅう…」 ふわ、と...

B04 ノット・ミラーリング

 しばらく、自分の顔を見ていない。  毎朝肌の状態をチェックもするし、歯を磨いて頭髪を整え、スタイリングも常に完璧にしている。  当たり障りのない日常を送るための、最低限の儀式。身だしなみという名の、ただのドレスアップだ...

B05 あなたと並べる場所

 ピピピピ、と鳴る目覚ましを止めて、私はのろのろとベッドの上で上体を起こした。身体は丈夫な方だが、朝の弱さは何年この仕事を続けても変わらない。満足に開かない目のせいであやふやな視界のまま、スリッパに足を入れて部屋を出る。...

C01 あのとき見ていたもの、いま見ているもの

「君には、ゼロを超える才能がある」 そう声をかけられて、鞄ひとつでアメリカへと渡った。 「荷物はそれだけかい?」 「はい。アイドルになるのが目的なので。本当に必要なもの以外は置いてきました」 九条さんはいつも、物腰柔らか...

C02 目には目を歯には歯を愛には愛を

「今日のトーク相手、逢坂くんをものに例えるとしたら?」 「もの?生きてないやつってこと?」  ことりと首を傾げてインタビュアーに意図を確認した陸は壮五に視線を向けてまっすぐに見つめてきた。逸らす必要も無いのでその視線を受...

C03 “いってきます”と“ただいま”のあいだ

 リビングから、いやに騒がしい笑い声が聞こえてくる。ゲラゲラと大声で笑って、なにかをバシバシ叩く音も。  ただお喋りが盛り上がっているとか、そういうものではない。  大人たちが、三人集まって酒盛りしているのだ。そういう時...

C04 手のひらの煌めき

「わ、前髪崩れた」 「萎えるやつじゃん」  現場と現場の間の自由時間。ふと入ったカフェで、列の前方に並んでいた女の子二人組の一方が、カバンの中のポーチから、黒い折りたたみミラーを取り出すのが目に入った。 ――あれ?  ツ...