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「今日のトーク相手、逢坂くんをものに例えるとしたら?」
「もの?生きてないやつってこと?」
ことりと首を傾げてインタビュアーに意図を確認した陸は壮五に視線を向けてまっすぐに見つめてきた。逸らす必要も無いのでその視線を受け止めつつ笑みを返すと、嬉しそうに笑う。
雑誌の取材をグループで受ける時、何人かに分かれるとなると環とセットになることの多い壮五だが、今回はじゃんけんをした結果陸との組み合わせになっていた。
ステージに立っていると目を引く圧倒的な華があるが、そうでない時は穏やかな雰囲気を纏う陸との空間はゆっくりと時間が流れている気がする。時間をとって丁寧に回答を考える陸を急かすことなく待ってくれるインタビュアーの優しさのおかげでもあるだろう。
「うーん……難しい。動物は聞かれたことあるけど……。……あ!鏡、かな」
「鏡?どうして?」
特別予想していたものがあるわけではなかったが、自分では言いそうにないものが挙がったので不思議に思う。陸の目で捉える世界は壮五が見ているものよりずっと鮮やかで、繊細だ。本が好きだからか、陸の内側にはたくさんの言葉が詰まっているのでそこからどんなものが引き出されるのか興味を惹かれた。
ゆっくりだけれど言葉選びを間違えない陸の話を聞くのは元々好きだが、それが壮五にまつわることだというなら尚更だ。陸には壮五がどう見えているのだろう。
しばらくの間、頭の中に溢れる言葉から適切なものを探す時間を経たあと納得のいくものを見つけたらしく口を開く。
「なんていうか、壮五さんってすごく平等だし誠実なんですよね。こっちが向けたものと同じ温度をちゃんと返してくれるから、鏡みたいって思います。優しくしてくれた人には優しいし、イジワルしてくる人にはちゃんとやり返してるし、オレが『大好き』って言ったら『僕もだよ』って笑ってくれます」
「貰ったものは返しなさいって育てられたからかな。ふふ、確かに泣き寝入りはしないタイプかも」
「かっこいい!ファンのみんなから向けられる『大好き』にも同じ温度で丁寧に返してるなって思うので壮五さんはアイドル向いてるなって思います」
「本当?ありがとう」
貰ったものは返す。実際にはそんな可愛らしい教えではなく時間にも金銭的価値を付加され続けてきただけだ。時間は無限でも無料でもない。相手の時間を貰う時、自分はどれだけのものを返せるか、逆に礼を欠く振る舞いで自分の時間を奪われた時何を返すか。相手の差し出してきたものに見合う対価を返せるか。幼い頃から刷り込まれてきたその意識は、家を離れても壮五の心の深い部分に根付いたまま消えることがないらしい。
「陸くんには僕がちゃんと返せてるように見える?」
「はい!だからオレは壮五さんに大好きって言うのが大好きだし、きっとファンのみんなもそうだと思います」
「……そっか。そうなんだ」
壮五にとって釣り合う対価を渡すことは借りを作らず、関係の不均衡を生まないための鎧だったが、陸の目を通すと壮五の振る舞いは誠実に映るらしい。
自分がアイドルに向いていると思ったことはない。音楽と離れたくなかっただけでアイドルでなければならなかったわけでもない。
けれど始めてみるとアイドルはどんな仕事よりも感情のやり取りが発生する仕事だった。向けられた期待に応える。愛情に応える。自分の創ったものに評価や反応が返ってくる。そう考えると案外壮五の気質に合っているのかもしれない。
「壮五さんがアイドルになってくれて良かった!」
屈託なく、本当に嬉しそうに笑ってくれるから、応えたい、返したいと思える。陸の言う「鏡」のようにいられるのは環境のおかげだろう。
「これからもちゃんと返せるように頑張るね」
「いっぱい返して欲しいからいっぱい大好きって言いますね。ファンの人たちもそうしてくれるといいな」
ちゃんと大きく見出しつけておきますね、と力強く宣言してくれたインタビュアーと笑い合う。どんな紙面になるのか楽しみになった。
