なな利き2

C04 手のひらの煌めき

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「わ、前髪崩れた」
「萎えるやつじゃん」

 現場と現場の間の自由時間。ふと入ったカフェで、列の前方に並んでいた女の子二人組の一方が、カバンの中のポーチから、黒い折りたたみミラーを取り出すのが目に入った。

――あれ?

 ツヤ感のある黒地に、見慣れたカラーリングとロゴ。それは、昨年行ったライブツアーで、オレたちが出したグッズだった。ファン……だろうか。少なくとも、昨年のライブに来てくれた人なんだろうということは想像がつく。誰のファンだろう。オレだって気付かれたらヤバいかな。たしか、あのミラーは巳波の発案で、グッズに加えたんだったか。

「よし、直った!」
「そのミラー、あんたいつも持ってるよね」
「うん!拡大鏡もついてて便利なんだよね。
 何よりさー、普通に好きな人たちのグッズ持ち歩けるのが最高」

――”たち”。じゃあ、オレたちみんなのファンなのかな。つい口角が上がりそうになって焦ったけれど、マスクをしているから問題なかった。

 『いつも持ってる』と言われていた。そんな風に、日常的にオレたちのグッズを使ってくれている人がいるんだ。ファンレターなどで知ってはいても、実際に見聞きしたことはなかった。しかも、多分オレたちのファンではない人にとっても、見慣れた風景になるほどに、日々使ってくれているようだ。

 やばい。嬉しいかも。かも、じゃない。普通に嬉しい。

 マスクの下でついニヤニヤしてしまうオレをよそに、その二人組はドリンクを注文してカウンターから受け取り、カフェの店内に消えていった。こっちはテイクアウトなので、ここまでだ。

 現場に戻りながら、自分の心臓の鼓動を感じた。嬉しくて、ドキドキしている。街中で自分たちのファンらしき人を見かけることはあった。でも、本当にファンの人の日常にオレたちが溶け込んでいるんだと感じられたのは結構大きくて。楽屋までの道のりで会うスタッフさん一人ひとりに、報告して回りたいくらいだった。

「ただいまー」
「おかえりなさい。亥清さん」
「巳波!ちょうどよかった。さっき行ったカフェでさ」

 ちょっと恥ずかしいくらいにテンションが高いオレの話を、巳波は笑って聞いてくれる。

「あら、それはとても嬉しいですね」
「だろ?なんか、いつも側に置いてもらえてるんだなーって思ったら、ドキドキした」
「ふふ、可愛らしいですね」
「ん?巳波はその子のこと見てないじゃん」
「もちろんその方も可愛らしいと思いますが、喜んでいる亥清さんも、とっても可愛らしいですよ」
「えー、なんだよソレ!」
「褒めてるんですよ」
「そうなの?じゃあ、ありがと」
「はい。素直で素敵ですよ」
「なんかさ、うちわやペンライトでライブ盛り上げてくれるのももちろん嬉しいけど、ミラーとかみたいに日常的に使えて、ちゃんと便利だなって思ってもらえるグッズもっと出したいなーとか思った」
「それはいいですね。ファンの皆さんの毎日を、私たちのグッズでジャックして差し上げましょう」
「なにがいいかな」
「そうですね……まあ、実際にグッズとして出すのには製造コストなどのお金面が大きく関わりますし、宇都木さんとも相談したほうがいいでしょうね」
「たしかに」

「呼びましたか?」
「「宇都木さん」」
「どうしましたか?お二人揃って」
「あのさ、今の空き時間に行ったカフェでさ……」

 しっかり乗り気になってくれた宇都木さんが出してくれたグッズ候補を見てメンバー四人で話し合ったり、虎於が『こんなん高すぎて誰が使うんだよ!』ってなるような案を出してきて三人(主にオレとトウマ)で呆れたりしたのは、また別の話。

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