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「いってきまあす」
リクが元気よく寮の玄関を開けて家を出る。
今日も暑い。照りつける日差しで肌がジリジリと音を立てる。
「二階堂さん、七瀬さんのこと頼みますね」
「リク、大和さん!ちゃんと水分取れよ〜!いってらっしゃい!」
今日は愛なNigthの企画でリクと俺の街ブラロケ撮影。
IDOLiSH7のセンター七瀬陸とリーダーである俺が、とある商店街をぶらつきながらその商店街のアピールをし、後でそれをスタジオでメンバーとコメントしながらやんややんや見る、よくあるやつ。
この企画は大体2〜3人で行われ今回は3回目。
1回目は初回に相応しいイチとソウのお手本のような街ブラ。ソウがその商店街の歴史をめちゃくちゃ分厚い資料にまとめてくるという真面目すぎるが故のハプニングはあったものの事前に読み込んでいたであろうイチのそつなくパーフェクトな紹介で好評を博した。
2回目のミツ、ナギ、タマ編は自由人二人に振り回されるミツが好評で、これまた盛り上がった。
勝手に店先でガールハントを始めるナギ、店頭販売のコロッケを渡され嬉々として食べるタマ。最終的にミツを真ん中にして手を繋ぎながらの街ブラという何ともカオスな絵になってしまい放送時はトレンドに「#アイナナ幼稚園三月組」「#連行される宇宙人再来」など面白キーワードが並んだことは記憶に新しい。
商店街は公募で決められ、俺たちが今回向かうのは横浜にある小さな駅前の商店街。
気温も湿度も高く蒸し暑いからリクに負担がかからないように、と思う俺のことなど気にも留めず、うちのセンターは上機嫌だ。
「商店街!紹介しNigth!」とコーナー名を二人で読み上げたロケ開始直後から
「ねえ大和さん!いい匂いしませんか?」
だの
「見てください大和さん!ここの名物は水饅頭なんですって!!大和さんはこし餡派ですか?粒あん派ですか?」
だのと目を輝かせて俺の周りを忙しなく走り回る。お兄さんにはリクに耳と尻尾が見えるよ…。
「すごい!このお団子もすごく美味しそう!ねえ大和さん、俺これ食べたいです!!」
なんてキラキラした笑顔で振り向くもんだからつい買い与えてしまった。なんなら喉詰まらせないようにってペットボトルのお茶も。やまさん、りっくんに甘くね?とか何とかタマにスタジオで突っ込まれる未来が易々と想像できる。
でもまあ正直、甘い自覚はあるんだけど。うちのセンター最強だし…しょうがなくない?
ロケは賑やかに進んでいく。リクの人懐っこい笑顔で周りもつられて笑顔になる。
商店街で働く人や行き交う地元民に話しかけられその度に嬉しそうに報告してくるリクを見ていると俺も自然と笑顔になる。
俺たちのセンターの愛され力、すげえだろって自慢したくなっちまう。
「二階堂さん、ドラマ見てるよ!ほら、これ食べてよ」「あの役すごかった、かっこよかったです!」
なんて俺に声をかけてくれる人も一人や二人じゃなく、IDOLiSH7だけではなく俺の活躍も見てくれている人が多いことにも驚いた。
見てくれてる人がいる、応援してくれてる人がいるってありがたいよな。
9人のお客さんのペンライトを思い出し、少しばかり感傷に浸って歩く。汗がこめかみを流れ落ちた。
その時少し前を歩いていたリクが
「わ!大和さんのドラマのポスター貼ってある!」と大声を出すもんだから気づいたそこの店主さんが店先まで出てきてくれた。
「娘がファンなんですよ。もちろん私も」
「嬉しいです。ありがとうございます」
「この役の大和さん、めちゃくちゃかっこいいですよね!オレも大好きなんです!!」
なんて店先でひと盛り上がり。自分のことを褒めてもらえるのは嬉しくて、いつだってちょっとこそばゆい。
その後も順調にロケは進み、ある程度の取れ高もできたかな、などと思った時リクが
「あ」と声を出した。
何だ?と視線の先に目をやると商店街の路地に色褪せてはいるが重厚感のある木製の扉。
「どこに繋がっているんだろう、すごくワクワクしません?」と近づきながらリクが無邪気に笑うから
「どこだろうな?リクはどこに繋がってると思う?」
と問い返す。
むむむ。と少し眉根を寄せ「そうですね…、」と考えたのち
「開けたらライブ会場で、オレたちを待ってくれてるお客さんのペンライトが光ってて、歓声が聞こえたらいいなって思います!!」
なんて口にする。さすが俺たちのセンター、なんて夢のある答えだろう、とも思うが。
「え、それってこのままの格好でライブに出るってこと?お兄さんそれはちょっと、」
街ブラ中に見つけた扉を開けたらライブ会場のセンターステージど真ん中でした〜、なんてあまりに日常とかけ離れすぎている。
今度は俺が眉根を寄せて苦笑するが
「大丈夫です!大和さんはどんな格好でもかっこいいです!」
「えぇ、うちのセンターいい子…!」……キラッキラのアイドルスマイルに絆されてしまった。
たぶん和泉兄弟あたりが「二階堂さん、ちょろふぎませんか?」「大和さん絆されてんじゃん!」とか言いそう、いや確実に言うな。
「大和さんはどこに繋がってると思います?」
「そうだな〜。ライブ会場も捨て難いけど…美味い地酒の置いてる居酒屋だったらいいよな」
なんて願望を口にしているとリクがその扉に手をかけた。
ーーガラガラッ
「あれ?リク君!?どうしたの!?」
出てきたのは先ほど話した商店街の人だった。
どうやらただの裏口だったようだ。そりゃそうだよな。こんな何の変哲もない商店街に異世界に繋がる扉なんてあるはずないんだから。
「えへへ、立派な扉だったから、ちょっと気になっちゃって。」と照れ笑いするリクに
「まあそういうオチだよな」
なんて苦笑いしながら扉から離れると、スタッフさんもカメラ越しに大爆笑しているのが分かる。
「リク、お前さんこういうとこほんと持ってんな」
「え、そうですか?…そうだ大和さん、みんなにお土産買って帰りませんか?」
無邪気に笑うその顔にまた周りがつられて笑ってしまう。
その後も、気になるお店を一軒ずつ覗きながら、商店街の人と軽快に言葉を交わすリク。
途中で試食させてもらった饅頭に頬をふくらませて「美味しいです!」と目を輝かせる姿が、今日一番の見どころかもしれない。いや、どうだろう。あの“扉事件”もなかなか捨てがたいな。
気づけば撮影もそろそろ終盤。陽も少し傾き、商店街を吹き抜ける風がようやく涼しさを帯びてきた。
「大和さん!今日は本当に楽しかったですね!」
カメラの前でそう言ってはしゃぐリクに合わせて俺も一言コメントをする。
撮影終了の声がかかり、マイクを外しながら大きく息を吐いた。
ふと隣を歩くリクを見れば、まだ元気いっぱいで、汗だくのはずなのに笑顔はまるで曇らない。センターってのは本当にタフで、そして底なしに明るいもんだなと思う。
この明るさが世界を照らせるように。俺はリーダーとしてこいつらをしっかり守ってやりたい。
肩で息をつきながら、それでも自然と口元が緩む。
「……リク、お土産選びに行こうか」
「はい!」