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「この時間は全国27局ネットでIDOLiSH7のナナイロトークをお送りしています。今日の担当は仕事中に音だけ聞こえてきて花火大会が恋しい和泉三月と」
「最近夏バテ気味で食欲を失っている二階堂大和でーす」
進行を任せれば難なくこなすが、三月と組む時に仕切るつもりはないようで語り口はのんびりしている。眠たげで穏やかな口調は寝物語を聞かされているようで耳に心地よく、ファンからの評判がいい。ボリュームを下げるだけでは作り出せない絶妙なトーンは深夜ラジオにぴったりで、声に張りのある三月からすると羨ましい限りである。本人曰く意識して作っている声ではないようなので単純に声質とラジオの相性がいいらしかった。
「なあミツ」
ちらりと時計を確認する間に柔らかな声が三月を呼んだ。
「んー?」
「ちょっと前にファンのみんなにアンケートお願いしてたの知ってる?」
「あー、結果は聞いてないけどやろうかなって言ってたのは聞いた」
話題フリー、と書かれただけの台本にあまり意味は無いので向かいに座る大和に視線を向ける。事前打ち合わせでは「話したいことあるからこの枠ちょうだい」とだけ聞かされていて詳しい内容は知らなかったが、それを不安に思わない程度には一緒にやってきている。
グループでもらっているラジオの仕事は毎回ランダムな(つまりスケジュールに都合のつく)組み合わせで放送しているが、誰とセットになっても進行や話題の心配がなく話せるようになった。
おそらく大和も同じで、更に三月相手なら好き勝手に話しても適切に打ち返してくれると信じてくれているのだろう。話の転ぶ先はまったく分からないので続きを促し、素直に聞き手に回る。
「俺、マネージャーが結果まとめてるとこに遭遇したからチラッと見たんだけど、あれの項目に俺らを知ったきっかけは何ですかっていうのがあったの」
「へえー。めっちゃ気になる」
「だろ。そこにドラマで俺の名前を知ってっていうのが結構あって」
「え、なに大和さんの自慢タイム?」
「まあ聞いてよ。そのあとに今は壮五くん推しです、とか陸くんが好きになりました、とか続くわけ」
「大和さんじゃないんだ?」
「そうなんだよな。もちろんそれきっかけで俺を応援してくれてる人も居るけど。だからエンドロールで俺の名前のあとに続いてる『(IDOLiSH7)』のとこ、めちゃくちゃ大事だなと思って」
「すげえ。大和さんがドラマとか映画頑張ってる意味あるじゃん」
「な。……けどそのコメント書いてくれてる人が結構な割合で『実は』とか『言いにくいけど』みたいなニュアンスだったのが気になってさ。俺的にはむしろ嬉しいからどんどん言ってくれー!って思ったからそれ伝えたくて」
「いや、まあ、それは書きづらいだろ」
「ってみんな思うんだろうな。俺としてはそれめちゃくちゃ教えて欲しいんだけど」
「落ち込まねえの?」
「全然。誰のこと好きでもCD買ってくれる人に変わりないし」
「おい」
「はは、それは冗談だけどさ。ドラマ見て、IDOLiSH7っていうグループの人なんだ、って思って歌番組とか見た時にこれがあの、この眼鏡見たことあんな、って意識に引っかかってくれたわけじゃん。それで七人見て、この子可愛いな、歌上手いな、喋り面白いな、とか思ってくれたらそれって大成功じゃない?」
俺はそういう、アイドル興味ない人の目に留まるために違う畑に行ってるわけだし、と軽やかに笑う大和にはきっと、三月たちには言わない苦労があったのだろう。
俳優としてこの世界に居る人からすればアイドルが進出してくるのにいい気はしないはずだ。わざわざ出しゃばってくるならそれなりの質でなければ、と色眼鏡で見られることも多いと容易に想像がつく。
立ち回りは上手い方だろうが余計なプレッシャーだったことは確かで、それでも「グループのためになるなら」という気持ちで頑張ってくれていたことを、分かっていたつもりだったがあらためて実感する。
「気づいてもらわなきゃ始まらないからさ。入口になれてたら嬉しいなーと思うわけ。もちろんそのまま俺のファンになってくれた人が一番好き」
「正直だなー」
「そこはな。まあこれからも一方通行の玄関になれるように頑張るよって話」
「一方通行なんだ?」
「出口要らなくない?」
「うわ」
多分今SNSで「そういうとこ!」と突っ込まれているのだろうなと想像する。三月が思ったのだ。大和のことを好きな人たちが思わないわけがない。
(こういうとこ上手いんだよなー、この人)
アイドルにこだわりなど無いという顔をしながら気持ちの重たさを零れさせるのが上手いので、自分以外のファンになる人が結構居る、と笑うけれどそれ以上に自分のファンを増やしているはずだ。
頼もしさとほんの少しの羨望を抱きながら目の前で柔らかく笑う大和を見やる。
いつでもやめられると、いつかやめるつもりでアイドルになったとは思えない。
「大和さんやっぱアイドル向いてるよ」
「ミツそれしょっちゅう言うよな」
「ちょくちょく思わされんだもん」
「ふうん?」
今はもう違うけれど、共同生活を始めた頃の殺風景な部屋を思い出す。いつでも出ていけるように荷物を増やさないようにしていたと聞かされたのも、もう随分前のことだ。
色々なことがあって、これからもきっと色々なことがある。それでも三月にとって守りたい場所も居たい場所もここにしかなくて、この場所を守るためにできることがあるなら何だって頑張りたい。
大和もそうで、きっと他のメンバーも同じで、それを疑わずにいられることが何よりも嬉しい。
大和がここに居たいと思ってくれて良かった。IDOLiSH7のファンになる入口で居たい。その気持ちに応えられるIDOLiSH7で居ようとひそかに誓った。