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「あっちぃー……」
コンビニの自動ドアを出て直ぐに環はうんざりした顔をしながら真夏の空を見あげた。太陽は雲一つない空の中でギラギラと輝いており、夏らしい日だ。今日は学校が午前だけの日で、一織、環、悠は三人でコンビニに立ち寄っていた。環は手にビニール袋を持っており、中には買ったアイスが入っている。ほんの少し外を歩くだけで額からは汗が滲み、首筋からは汗が流れていく。こんなにも暑い中で蝉は元気に今日も鳴いている。
「四葉さん、出入口で立ち止まらないでください。邪魔です」
「四葉! 邪魔だから早くどいて。アイスが溶けちゃうじゃん」
環の後から続いて自動ドアから出てきた二人もコンビニ袋を持っている。一織と悠がそう言えば環は「今どくー」と言いながらコンビニの駐車場の方へ歩いて行く。ここのコンビニの駐車場は広く、少し奥の方には木陰が出来ているので三人はそこで買ったばかりのアイスを食べる予定だ。もし先に人が居た場合はアイスが溶けてしまう可能性があるので歩きながら食べて帰るつもりだが三人共出来れば木陰でアイスを食べたいと思っていた。
「おっ! ラッキー! 誰もいない!」
「良かった! こんな暑い日に食べながら帰ったら直ぐに溶けそうだし」
「そうですね。もう既に少しアイスが柔らかくなってきてる感じもしますから」
「え! なら早く食っちまおう!」
慌てて環はコンビニ袋からアイスの袋を取り出して中身を出そうとする。全員同じソーダ味のアイスを買っていた。特にこれにしようと決めた訳ではないが夏らしく、さっぱりとしたこの味を食べたかったのだ。
「んー! うまい!!」
一番にアイスに齧りついた環は幸せそうな顔をしてそう言う。続いて一織、悠も袋からアイスを出して食べれば二人共アイスの冷たさに甘さに頬が緩む。
「最高っ! やっぱり夏にはアイスだよな!」
「ですね。暑さが和らいだ気がします」
「ん? 四葉もう食べたの? ていうか、二つ買ってる!?」
「こんな暑い日に一つじゃ足りねぇもん。二つ目いっただきまーす!」
早くも一つ目のアイスを食べ終えた環は今度は王様プリン味のアイスを袋から取り出して食べ始めた。
「後でお腹を壊しても知りませんよ」
「大丈夫、大丈夫! 腹つぇから!」
「そう言って後で腹壊してたらうける。今日オレと夜にゲームで遊ぶ約束してるの忘れるなよ〜」
「忘れてねぇし! それに帰ったら今度は王様プリンを食べるから」
そう環が言えば一織は眉を顰めてアイスの二本目を食べている環を見る。
「そんなに食べたら夕食が入らなくなりますよ? 今日は兄さんが夏野菜カレーを作ると言っていましたからちゃんと食べてくださいね」
「大丈夫、大丈夫! 食える! みっきーのご飯大好きだし!」
「そうですか。では好きにしてください」
環は二つ目をもう食べてしまっているので意味がないと思い一織はそれ以上言うことをやめて自分の買ったアイスを齧る。木陰でアイスを食べる三人の元に優しい風が吹き、暑さで火照った体を優しく冷ますようだ。
「なんかさぁ、こう……新しい扉いいよな」
「え?」
悠と一織は同時に環の言っている意味が分からずに困惑した言葉を発した。ほんの少しの間誰も話さずに、木に止まっている蝉の鳴き声だけが聞こえる。
「……なんですか急に。新しい扉?」
「四葉、暑さで頭おかしくなったの?」
「おかしくなってねぇよ! ほら、よく漫画とかそういうのあるじゃん! 新しい扉開きたいとか、新しい可能性を見つけたいみたいな!」
「あー、そういうことか。四葉が急に変な事言い出したからびっくりした。うわぁ、びっくりしてたら手の方にアイスが流れてきてる……」
「そうそう! なんかこう新しいことやりたい! みたいな」
「新しいことですか。具代的にはどんなことをですか? 四葉さんはあるんですか? 新しい扉」
「……うーん、振り付けは最近やってるからそれ以外だとこれだ!って言えないけど、こう新しいことに挑戦していきたいなってこれからも。いおりんといすみんは?」
「私はIDOLiSH7を更に高みに連れて行けるなら新しい扉を探しますかね」
「オレはメンバーと色々と挑戦して行きたいかな。ドラマはみんなでやったから他には――」
夏の昼下がり、一織、環、悠はそれぞれの未来への思いを、新しい可能性という扉を語り合う。
例えその扉をいつ開くことになっても今はその可能性を、その夢を追ってみたいのだ。
この語り合いが三人の青春の一ページとしてこれからも三人は時折思い出すだろう。