A01 魔法に掛けられて

 逢坂壮五がIDOLiSH7寮の玄関ドアを開けて目にしたものは、靴を履いたまま上がり框かまちに座り込む七瀬陸の姿であった。陸は両手にスマホを持ったまま座っており、額を両手で支えているような姿勢だった。壮五は一瞬、陸の体調...

A02 ふと微笑んでしまう瞬間に

 アイドリッシュセブンの個人の仕事が増え、広報の数も増えた。ファンの声もあり、開かれた場所で新しい自分を魅せよう、と七人はそれぞれラビスタグラムを開設することになった。  移動中の車の中、スマートフォンをふと手に取る。 ...

A03 paint it blue

「ただいま帰りました。」  扉を開けて部屋に入るけれど、あのひとからの返事はない。リビングもキッチンも、もぬけの殻だ。水曜日の16時。この季節の夕方は街灯のいらない程度に明るいものだが、私たちの寮の居間の窓は小さいから、...

A04 扉

オレたちは、今まで色んな悩み事や辛いこと、悔しい事を経験してきた。それは、オレたちだけじゃなくて、TRIGGERや、Re:vale、ŹOOĻのみんなたちだって。 オレは過去の自分に言いたい。「キミは、将来天にぃと一緒に歌...

A05 Call!!

――影ナレレポ、頼んだ!!!!!!!  そうは言ったって、何とか間に合わせなさいよ。なんて内心と一緒に送信したスタンプの横には、いつまで経っても既読の文字は浮かばない。変化のない画面とのにらめっこにリソースを持て余した脳...

A06 I’m home.

 大人の付き合いというものはいつになっても中々廃れてはくれないもので、この日も番組の打ち上げにと呼ばれたIDOLiSH7のマネージャー、小鳥遊紡と共に、同グループ代表としてリーダーの二階堂大和も出席していた。こんな時か、...

B01 やさしさの箱

「求めよ、さすれば開かれん」  ふっふっふ、と鼻歌混じりに口にしながら、自分よりも背の高い大きな箱の扉を開けたのはこの寮の住人の一人だった。  扉が開かれた瞬間、中からもれ出た光が青年の顔を照らし出す。青年は箱の中をのぞ...

B02 もう大丈夫

 銀色の引き手に触れようとして、動きが止まる。吐いた息を再度吸い込む。もう何回目だろうか。肩からズレてもいないランドセルを、天は背負い直す。HRが終わってすぐに病院へ直行し、トイレで持ち運び用の衣料用クリーナーを使って服...

B03 The Door

 ドアの音が、苦手だった。  負の感情がたっぷり含まれた大声が飛び交ったあと、わざとらしいくらい耳に残る音を立てて閉ざされるドア。そして、そのあとに訪れる張り詰めたような沈黙。    ……ぱたん。  あれは、十龍之介の好...

B04 一つの扉が開いた時には、

   ――ブブッ  迎えを頼もうと手に持ったスマートフォンの画面がメッセージを表示しながら光を帯びた。  ”問題!”  最近はそこまで珍しくはなくなった名前と一緒にその3文字が画面に並ぶ。すぐにメッセージを開き、既読をつ...

B05 死ぬまで奏でて

「……重い」 これまでに何度触れたかわからない扉を必死に押しながら文句をつける苛立った横顔は整いすぎていて、まるで作り物のようだ。色素の薄い髪色も、目元のほくろも、あまりに出来過ぎている。それに加えて音楽の才能まで与えら...

B06 扉をあけて

「一織、『二十の扉』って知ってる?」  七瀬さんの脈絡もない問いかけに、私は課題を解く手を止めた。  収録中の番組で機材トラブルがあり、楽屋待機となってしばし。隙間時間で学校の課題を進めることにした私の隣で、七瀬さんは文...

C01 新しい扉

七星学園の下校のチャイムがなる。 教室にて、一織はとりあえず帰宅しようと教室の机から席を立った。スマホを持ちながら確認するとあの人からのラビチャは来てないようだった。まぁ、あの人も今日は仕事に行ってるし来ないだろう。何か...

C02 高校生組のお昼休憩

午前中の撮影が終わって、用意された休憩室の扉を開ける。 「あー、つかれた〜」 「四葉さん、皺になるので上着を脱いでください」 さっそく椅子に座る四葉と、ハンガーを手に取る和泉。2人を横目に見ながら、弁当の袋をテーブルに置...

C03 輝きを作る人

 ヘアメイクアーティストを仕事にしたのは、表に立つ人が輝くための『武装』を手伝えると思ったからだ。幼い頃から、人が変身する姿を見るのが好きだった。魔法少女もののアニメは漏れなく見ていたと思うし、戦隊もののドラマも大好きだ...

C04 カウントダウンの後に喝采

 学校終わりの亥清悠は、まっすぐにツクモプロダクションの旧社長室へと向かった。新曲に向けての会議のためだ。  扉を開けると、室内にはŹOOĻのマネージャー・宇都木士郎がデスクワークを片付けているところだった。他のメンバー...

C05 do or を越えて

side.Y  扉を開けるのは、いつからかずっと憂鬱だった。家のは特に重いし、めちゃくちゃ大仰な音が鳴るし。――それに扉の先に待っているものに、無性にイライラしてしまうから。 「しっ、坊ちゃんが帰ってきました」 「おい、...

D01 瞳に映るものは

「ついてこないでくれるかい?」 そう投げ捨てるように言い放った相方の瞳には憤怒と憂愁が入り混じった複雑な色をしていた。 思わず伸ばした手が虚しくも空を切る。そんな自分には目もくれずに彼はリビングの机に広げて手入れをしてい...

D02 アタラシイオト

「壮五さん、これで荷物は全部ですか?」  引越業者の人とトラックの近くで確認をしていた紡が、寮の入口辺りにいる壮五に声をかけた。壮五はその声に「はい、大丈夫です」と答える。  デビュー前から暮らしてきた寮。水回りの老朽化...

D03 おかえりなさい

 母と暮らしたあの大きな家を出てから、一人で暮らす小さな部屋の他に自分の居場所なんてどこにもないと思っていた。誰もいない、ひとりきり。それがこんなにも安心できることをあの大きな家を出て初めて知った。誰かにかわいそうだと思...

D04 かげろう

 それは遠い昔。  もう、匂いも声も忘れてしまいそうなぐらい、遠い記憶。  母の腕の中で、環は耳を覆われている。柔らかな母の両手越しに、怒鳴り声が聞こえている。  (きえちゃえ)  環は小さな眉をしかめた。  扉の向こう...

D05 モフモフと僕〜棗巳波の場合〜

 長いレコーディングを終えて事務所に戻り、今やすっかり私たちの秘密基地となった部屋の扉を開けると、そこは、猟奇的殺人事件の現場だった。床に朱色の液体がこぼれ、壁には赤黒い痕があり、モントマさんは怯えて部屋の隅で震え、モン...

E01 商店街!紹介しNight!

「いってきまあす」 リクが元気よく寮の玄関を開けて家を出る。 今日も暑い。照りつける日差しで肌がジリジリと音を立てる。 「二階堂さん、七瀬さんのこと頼みますね」 「リク、大和さん!ちゃんと水分取れよ〜!いってらっしゃい!...

E02 愛しき音の、その先に

「やぁ、野良猫くん」 「その呼び方、止めてもらえませんか」  夕暮れ時、局の廊下。自販機とソファがある一角で休憩していた大和は、そこに現れた人影に顔を顰めた。 「合ってるだろう?」 「役の話ですよ」  適当に小銭を入れれ...

E03 無限遠点

 真冬だと言うのに、じわり、と握りこぶしに手汗が滲んだ。もうここに着いてから、十分は経っただろうか。一月の風は冷たい。これ以上、ここで立ち止まっていたら風邪をひいてしまうかもしれないということは理解している。陸くんのいる...

E04 夢現

 とっくに夜も更けて丑三つ時だって越えたくらいの深夜に、玄関の鍵がゆっくりと開けられて人が入ってくる気配がした。この家の住人は僕と、先住人である幽霊と、モモの三人で、幽霊は家からは出ないし僕は布団の中で微睡んでいるので、...

E05 扉の向こうの平穏な世界

これは、夢だ。 目を開けた瞬間そのことを察せられるほどあまりに現実離れしている場所に私は一人立っていた。 そんな状況でも、夢を見ている間はその自覚がないものだけれど、その自覚があるということは、夢は夢でも相当異常な夢なの...

F01 白い扉の向こうに

今まで、何度、開けてきただろう、と一織は思う。 家、部屋、学校……ありとあらゆる扉を開けてきた。 時には、開けるのを躊躇したり、緊張したりしながら、数えきれないくらいには。 アイドリッシュセブンになってからは、普通の人で...

F02 部屋の主は誰か

目が覚めたら部屋に閉じ込められていた。 何を言っているのか分からねえと思うが以下略。 …え? なんでこんな口調になっているかって? それは、この前―― 「ん…、んぅ…」 「あ、おはよう、陸くん」 「壮五……さん…?」 七...

F03 扉の前の誓い

 デビューしてしばらく経ったある日、ミツがSNSでちょっと叩かれた。  理由はくだらないことだ。ミツがとあるバラエティ番組に出演した際、カメラの角度の問題でミツと共演者の女優がやたら密着しているように見えた――らしい。で...

F04 友愛ミッション2025

 間に合え!  夏の気配の色濃い夜二十時半過ぎ、俺は改札目掛けてホームの階段を駆け上がった。  本来ならもう少し手を入れねばならない資料から目を逸らし会社を飛び出したのは、二十一時までに自宅へ辿り着きたかったから。更にで...

F05 開けずの扉

「そういうわけで、皆さん! こちらのお絵かき伝言ゲームをして遊んであげてくれませんかね? 彼と」 「いや、どういうわけ?」    その日ŹOOĻは歌番組の収録目的でテレビ局を訪れていた。新曲とアルバムの宣伝のためにすこし...

G01 夏の昼下がりに未来を

「あっちぃー……」  コンビニの自動ドアを出て直ぐに環はうんざりした顔をしながら真夏の空を見あげた。太陽は雲一つない空の中でギラギラと輝いており、夏らしい日だ。今日は学校が午前だけの日で、一織、環、悠は三人でコンビニに立...

G02 ノー・ターンバック

「この時間は全国27局ネットでIDOLiSH7のナナイロトークをお送りしています。今日の担当は仕事中に音だけ聞こえてきて花火大会が恋しい和泉三月と」 「最近夏バテ気味で食欲を失っている二階堂大和でーす」  進行を任せれば...

G03 華散る未来

—Prologue— 「がっ、がく!りゅう!」  朝、TRIGGERの年長者、楽と龍之介が二人で朝食の準備をしていると、廊下の先、天の部屋から叫び声に近い声が聞こえて来る。 「どうした!」 「大丈夫!?」  いつになく慌...

G04 〇〇〇〇しないと開かない扉

「ん?ここは……?」 どこかへいっていた意識が戻り、トウマは目を開けた。そこは不自然に真っ白な空間で、目の前には扉がある。 こんなところにいる心当たりはなく、ドッキリか何かとしか思えない。 「ん……?」 「えっ、ハル!?...

G05 しあわせと同じだけの音

 窓から差し込む陽の光が濃くなり、キッチンから食欲を誘う香りが漂い始める頃。  誰かがつけたらしいテレビの音に紛れて、「ただいま」と声がした。覇気のないそれに違和感を覚え、昼間から休日を満喫していた大和は振り返る。同時に...

H01ちぎれ、一口大

 彩りの良いチャーハンの隣に並ぶ、アルミボウルにどかんと盛り付けられたレタスサラダ。萎びた薄緑の葉を箸先で摘み上げ、虎於は整った眉をひそめた。 「……デカすぎるだろ」 「えー?」  ぼそりと漏らした不満に間延びした声が返...

H02 Legacy

 犯罪に、暮れも正月もない。  しかし、よりによって大晦日に逮捕されなくても。  そして正月の一月二日、私が当番検事の日に身柄送致されてこなくても。と、内心で思ってしまうことくらいは、許して欲しい。  立会事務官から手渡...

H03 I believe you

 かつ、かつん。三つの、重さが違う足音が街の喧騒に溶けていく。彼らが向かう先は同じだ。 「まさか楽があんなことを言うなんて」 「んだよ、意外だったか?」 「ううん。俺はすごく嬉しかったよ」 「実はボクも」 「素直じゃねえ...

H04 新しい舞台へ

 この世界が、真にひとつになることはとても難しいことだろう。  海で生まれた生命はやがて陸地にその足を運ぶ。平地、山岳、森林、砂漠。陸地には既に様々な空間があった。  それから果てしなく長い時を経て、人間という生き物がこ...

H05 3cm

 風呂からあがり、紡との打ち合わせの確認やバラエティ番組のアンケートなどを済ませてから雑誌をめくっていた。どんな情報も自分たちにとって無駄なものはない。寝る前のこのわずかな時間でも、ぼんやりしている暇なんてなくて——。 ...

I01 門出

ほんの数か月前、目の前には、空席だらけの客席が広がっていた。それでもなお、嬉しいと感じていたけど。でも、今、オレの目の前には、零れ落ちそうなほどの無数の光が、虹色が、輝いている。ステージ上にいる俺たちに向かって、声援とと...

I02 さびしさの行方

じわじわ、じわじわ。 容赦なく肌を刺す鋭い日差しと、耳をつんざくような蝉時雨を浴びながら、環は黙々と手を動かした。汗で肌に張り付くワイシャツが気持ち悪い。でも、急いで帰ろうという気にはならなかった。熱射も浴びてもどこかひ...

I03 四つの鍵

 ホテルにチェックインすると、トウマはフロントで四つの鍵を渡された。古めかしい真鍮製の鍵で、それぞれ桜、向日葵、もみじ、雪の結晶の衣装が施されている。  フロントマン曰く、 「春、夏、秋の部屋はご自由にお使いいただけます...

I04 言の葉渡る蝶々

「うわ、また!?」  着替えとメイクを終えて都内某テレビ局の楽屋で待機していると、向かいのパイプ椅子に座る環くんが突然叫んだ。大きな声に、反射的に肩がびくりと震える。ネットニュースをチェックする目を一度止めて顔を上げると...

I05 扉のむこうにある日常

 寮の静けさを破るように、素足で床を踏み鳴らす音が駆けてきて、扉が嵐のように打ち鳴らされた。 「いおりーん、いる?」  がたがたと揺れるドアの向こうから、間延びした声が聞こえる。一織は読んでいた本を閉じ、ため息をついて立...

サンプル作品タイトル

 こちらは利き小説企画用のサンプル文章です。 送っていただいたテキストを基本的にそのまま掲載します。全角・半角、改行、スペースなどもそのままです。振ふり仮名がなについては指定があれば設定します。その他の装飾(章タイトル表...